三瀬村診療所実習レポート
実習期間:H1547~18日 佐賀医大6



実習スケジュ−ル
1
日目;三瀬診療所実習(外来)
2
日目;シルバーケア三瀬デイサービス体験
3
日目; バス送迎乗車、三瀬診療所実習(外来) 訪問診療実習
4
日目; バス送迎乗車、高齢者大学講義 三瀬診療所実習(外来)
5
日目;三瀬診療所実習(外来)
6
日目;介護老人福祉施設 シオンの園 デイサービス体験
7
日目;シルバーケア三瀬 訪問介護体験
8
日目;福田内科 訪問診療体験
9
日目;富士大和温泉病院 訪問看護 通所リハビリ
10
日目;三瀬診療所実習(外来)日本脳炎予防接種 高齢者サービス調整会議



【外来診療】
 外来に訪れる患者さんは主に慢性疾患を患っている高齢者の方々だ。診察室では学生は血圧測定を任され、後は先生が「調子はどうですか」と問診を行い、聴診をし、薬を処方するということが繰り返される。一人の患者さんに対する診察時間は5~6分といったところか。一見すると大学病院のそれと変わらない気がする。初日に私はアンケートで「診療所は患者−医師間の距離が短い」と答えた。それに対する先生の、「本当にそうですか?」という問に対し、いや、あまり変わらないというのが初日の感想だった。
 しかし、先生は患者の疾患や体調だけでなく、また患者本人のことだけでなく、患者の家族、仕事、生活習慣などを含めて「調子はどうですか」と聞いており、患者もそれら全般について答えているようだ。中にはこちらが何も聞かずとも「先生今日はですね」と語りだす患者もいる。  
 ではなぜ、その違いについて着目してしまうのだろう。大学病院に限らないが大きな病院はそういう患者のバックグラウンドを基に診療していないのか?患者の話を十分に聞いていないのか? それはかかり付け医と専門病院との役割の違いであるということに気がついた。専門病院にはやはり疾患を診るという役割がある。よく大きな病院では患者の話もろくに効かずにという批判があるが、普段の健康管理はかかり付け医に任せ、専門医へは大きな病気を治しに行くというのが理想的であるとすれば、少なくとも私が実習を通してみてきた専門医(大学病院)の在り方は(改善すべき点はあるだろうが)あれでいいと思った。だからこそかかり付け医としての診療所の存在は大切だと思う。
 また印象に残ったのは死・看取りについての話を患者としていることだ。ある日、最近ご主人を亡くされた老婦人とそのお嫁さんが外来を訪れた。その亡くなった方に関する詳しい経緯はよく分からなかったが、亡くなる4日前に肺炎で入院され酸素吸入を受けながら最期は眠るように逝ったという。在宅で亡くなること、病院で亡くなること、また両者の連携でもって患者さんを看取ること、それらの意義を先生は優しい言葉で話され、その婦人はそれまでを振り返り、先生のサポートに対して涙を流しながら感謝の言葉を述べていた。
 外来ではこのように家族を亡くされた人や死に逝こうとする患者の家族に対して相談やアドバイスを行っている。一人一人の患者さんの事情を考慮しその人にとって一番良いと思われる最期を迎えることができるようにするというのも家庭医の重要な役割といえる。 



【デイケアサービス体験(シルバーケア三瀬・シオンの園・富士大和温泉病院)】
 今回の実習では異なる3施設のデイケアサービスを体験することができた。
・シルバーケア三瀬:利用者の多くは診療所の外来で見かけた患者さんである。スタッフに一員として朝、利用者一人一人のお宅の玄関先までバスで迎えに行き、バイタルのチェックし、センター到着後は簡単なレクリエーション、食事、午後は入浴やレクリエーションなどを行う。これらの内容は他の2施設と同様である。この日の午後はバスで金立公園まで花見に出かけた。
シオンの園:痴呆の高齢者が利用する「デイサービスひまわり」で見学実習させていただいた。ひまわりに登録されている利用者は約40名で毎日約16,7人が利用している。最初は利用者が痴呆であるということでどのように接すればいいか迷ったが、まずは相手の話に耳を傾けるということが重点を置いた。中には帰宅願望が強く、到着時より歩いて帰ると言い続ける人がいた。繰り返し同じことを言うのは不安の現われであって、こちらは相手の話を良く聞きその不安を少しでも取り除くことが大切である。
富士大和温泉病院通所リハビリ:介護認定を受けた障害を持つ高齢者が利用するデイケアを兼ねた通所リハビリを行っている。一日の利用者は40人である。ここでの一日のスケジュールはかなりゆったりしたもので、全体のレクリエーションなどは少なく、個人個人が入浴、リハビリを昼食以外の時間で行い、空き時間は仲の良い小グループに分かれて手芸をしたり歌を歌ったりしている。
 また施設を案内してもらったが、風呂場はリフトや階段が備えられていて利用者の障害度 や訓練によって使い分けられている。体を洗う場合も生活訓練の一環としてできるだけ利用者本人が行うそうだ。トイレは車椅子でも十分動けるほど広い造りになっているが広すぎるらしく、個室が2つしかないことからとても混雑するそうだ。
 面白かったのが送迎バスの乗車で、このバスは車椅子ごと乗車できるリフトつきの介護ワゴンだった。見たことはあったが乗るのは初めてで実際車椅子でのリフト乗車も体験した。思ったより視線の位置が高く後部座席は振動が激しいので体がこわばってしまったが、体験できてよかった。
   
 この3施設のサービスの目的はそれぞれの利用者の違いにより少しずつ異なっている。シオンの園での主な目的は同居する家族の負担の軽減である。食事、入浴、排泄介助などをきちんと行うことで清潔を保つ。三瀬ではサービスの内容はさほど変わらないが、利用者に元気な人が多いこともあり利用者が十分に楽しんでもらうといったところに重きを置いているようだった。三瀬のスタッフの方は「現在デイケアを利用している人は一番自分の人生を犠牲にしてがんばってきた人達なので今は精一杯楽しんでもらいたい」と言っていた。もちろんシオンの園でも利用者は食事や入浴、レクリエーションを楽しみにしてくる人が多く、また実際心から楽しんでいるようであった。温泉病院での目的は大きく3つあり、障害を持つ高齢者の引きこもり防止、日常生活における身体活動訓練、介護者の負担軽減である。実際利用者の多くは他の施設のデイケアサービスと併用することで週に4日は外出しているそうだ。また利用し始めて調子が良いと喜んでいた。
 それぞれの施設に共通して印象的であったのが、スタッフに同年代(多分私より若い)スタッフが多かったことだ。社会での介護福祉に対するニーズが増えてきたことも関係するだろうが、目の前で同い年くらいのスタッフがプロとしてしっかりと介護をしている姿を見てとても刺激になった。  



【訪問診療(三瀬村診療所・福田内科医院)】
 村での水曜の午後は先生と看護師さん1名とで3軒のお宅へ訪問診療に伺った。在宅療養中の患者さんで診療所へは来ることができない方々である。そこでは患者さんの状態を診るだけでなく部屋の様子や介護器具、家族の介護の様子を見聞きし皆が快適に過ごせるようアドバイスを行ったり、逆に実際の体験談による情報収集を行ったりする。この日はあるお宅の縁側に車椅子用のリフトが取り付けられており、安全性や利便性について家族と話していた。
 佐賀市内の福田内科医院では一日おきに午後の診療を全て往診に当てている。一日に廻るのは123軒。忙しい時には昼食をとる暇もないのだそうだ。この日も午後1時から始まって全て廻り終わったのは夕方5時を過ぎていた。それぞれの患者さんの家ではバイタルをチェックし薬を渡すのだが、あるターミナルの患者さんの家では、聴力を失った患者さんに筆談で話しに応じるなど忙しい中でも時間を割いて応対していた。また宅老施設にも患者さんがおり、実際の受け持ち患者でなくともほぼ全員の状態を把握するなどますます忙しさに磨きをかけていた。宅老施設は始めて見学したが、民家を改築しているため過ごしやすいのか、入所者の表情が皆明るく、実際まったく寝たきりだった人が動けるようになるなど身体面にもいい影響を与えているそうだ。
 往診を含め、個人病院としてしっかり患者さんをサポートできるのは容態が悪化した時にすぐ対応してくれるよう専門病院との連携がしっかり取れているからだと福田先生はおっしゃっていた。専門病院のほうもかかり付け医が退院後もしっかりケアをするからこそ疾患の治療に専念できるのだろう。



【訪問介護・訪問看護体験】
 シルバーケア三瀬のヘルパーさんに同行して4件のお宅へ訪問介護に伺った。体の不自由な人の家でまずはバイタルをチェックして食事、掃除、洗濯などの家事を行い、必要に応じて入浴介助などをする。食事は毎日重ならないように献立を記録するなど工夫されていた。利用者の多くはデイケアと併用している。一人暮らしの高齢者で体の不自由な場合は外出する機会も少なく、ヘルパーさんが訪ねて来るのを心待ちにしている様子だった。今回伺った家では、ヘルパーさんの仕事の簡単なお手伝いをした他はずっと利用者のお年寄りと話をしていただけだが、皆さんとても喜んでくれてうれしかった。毎日ではなくともこのようにヘルパーさんが訪問することは身の回りの世話をするだけでなくちょっとした変化にも気が付けるだろうし、一人暮らしの身としては心強いのではなかろうか。ヘルパーさんは「何かトラブルがあったときでも主治医の先生とすぐ連絡できる体制を整えているので安心して仕事ができる」と言っていた。医療との連携の重要性を教えてもらった。
 富士大和温泉病院では訪問看護サービスを行っており、今回4件のお宅へ訪問看護に同行させてもらった。うち2件は服薬指導、残り2件は褥創のケアが主な内容であった。服薬指導ではそれぞれ一度に服用する薬を一つにまとめ日付を記載し朝・昼・夜と分けられ手作りのカレンダー上に並べられる。慢性疾患をいくつも抱え服用する薬の多い高齢者は飲むのを忘れることも多いため家族も確認しやすいようにとなされた工夫である。褥創のケアでは傷口の処置だけではなく新たな褥創ができないように家族に体位変換の指導をしたり一日中ベッドで過ごすことの多い患者さんに起き上がってもらったりする。また寝たきりの患者さんに対しては清拭、摘便などを行っている。医師の往診、ヘルパー、訪問看護とそれぞれの仕事の枠組みとその連携が見ることができてよかった。



【高齢者サービス調整会議】
 月に一度診療所(内科、歯科、看護師)保健師、ヘルパー、介護師、行政が村の医療福祉サービスを利用している高齢者一人一人について日々の状態の報告と意見交換をおこなっている。ある人は最近診療所を受診していないがデイサービスやヘルパーを利用しており、健康状態はどうか、自分で診療所まで来ることはできるか、などを全員で認識しその人にとって今後何が必要なのかを検討する。一人暮らしの高齢者に対してもこうして確実に健康状態を把握するシステムが整っているのは住民にとって大変心強いことであろう。



【実習のまとめ】
 今回の実習では実際の外来診療に加え、患者の看取りや在宅での死、またそれらに対して医師がどう関わっていくか、地域の中での診療所の役割など様々な事柄に触れ考える機会に恵まれた。
 また診療所以外の病院、福祉施設を見学することで郊外と都市部のそれぞれの往診形態や高齢者に対する通所サービス、訪問サービスのあり方を知ることができた。大学の病棟実習ではやはり疾患に対してどう対処するかを中心に学ぶが、今回のこの2週間の体験で「疾患に対して医師が」でなく、「一人の患者さんに対して医療、福祉のチームが」どう関わっているかを学べた。  
 2週間、自分自身これからどういう医師を目指すかを考えることができ、しっかり患者さんを支えていけるだけの知識と技術を身につけるため改めて日々の努力を行う意欲を得ることができたので、この実習を選択してよかったと思う。  
  
 白浜先生をはじめ、各病院、施設でお世話になった方々、また実習を受け入れてくださった地域の方々のおかげでこの2週間は充実した実習をすることができ、大変勉強になりました。ありがとうございました。